生体認証最新動向

近年、業界は「コンタクトレス化」「マルチモーダル化」「AI駆動化」に大きく舵を切っており、例えば顔認証・指紋・声・掌静脈など複数の生体情報を統合する「マルチモーダル生体認証」の採用が急速に進んでいます。市場規模も拡大が著しく、世界のバイオメトリクス市場は2025年に約5 260億ドル、2029年には約9 357億ドルまで成長する見込みです。また、銀行・金融サービスではパスワードレス認証への移行が進んでおり、生体認証+行動分析+AIによるリスクベース認証がスタンダード化しつつあります。一方で、プライバシーや倫理・偏見の問題、さらに深層偽造(ディープフェイク)を用いた攻撃リスクも無視できず、データ保護・透明性確保が強く求められています。総じて「安心・便利・安全」を両立する次世代認証の実装と、それを支える制度・技術基盤の整備が今まさに焦点となっています。

生体認証の高度化を支える核となっているのが「AI駆動化」です。従来の生体認証は、指紋の特徴点や顔の輪郭といった“固定された特徴”を照合する仕組みが中心でしたが、近年はディープラーニングにより、光の反射・皮膚質感・微小な筋肉の動きといった動的特徴まで解析できるようになりました。これにより、マスク着用時や角度のある状態でも高精度の認証が可能になり、ユーザー体験が大きく向上しています。さらに、AIが「偽造の痕跡」を検知する“ライブネス検知”も進化し、深層偽造(ディープフェイク)による不正をリアルタイムで見破る能力が急速に高まっています。今後は、環境光やストレス状態など、状況変化に応じてモデルが自律的に最適化する「アダプティブ認証」が主流になると見られています。認証の精度向上だけでなく、処理の効率化やエッジデバイスでの推論も進展しており、AIが生体認証の安全性・利便性の両面を根本的に底上げする時代が到来しています。